ハレルヤがこの小さな(と言ったら怒られるかもしれないけ ど)ガンダムエクシアのパイロットを密かに気にかけている、という事実に気がついたのはソレスタルビーイングが世界に向かって介入行動を始めるよりもっと ずっと前のことだったのだけれど、その気持ち、彼が刹那のことをどんな風に想っているのかなんて知ったのはつい最近のことだったんだ。
元々、僕はハレルヤに話し掛けるけれども、普段ハレルヤから僕に話し掛けるなんてことは稀で、それも一方的な罵倒だったり、交代の要求だったりとあまり質 のいいものじゃなかった。
でも僕はハレルヤのことが大好きで(当たり前だろう!)刹那のことも可愛い弟みたいに思っていたから、僕としてはハレルヤが刹那について何か思ったりする ことは全然構わなかった。
だって、ハレルヤはあまり他の人間に興味がない。多分、外の世界にいる人間を凄く嫌って――いや、恐がっているような感じがする。 ハレルヤはきっと僕よりも感受性が鋭いのだと思う。同じ景色を見ても、僕はそのまま表面だけ見て夕焼けを綺麗だと思うけど、ハレルヤはその中に血溜まりを 見付けたり、爆発する前の火薬の様子と重ねたりしてしまうんだ。
だから、そんなハレルヤが刹那に何か思うところがあるのだとしたら、刹那の持っている何かがハレルヤの感受性の琴線に触れたのだろう。それもとても善い方 向に。
ハレルヤはその強すぎる感受性からいつも世界に向かって攻撃的で、苛ついて、その破壊衝動を押さえ込むのは大変なんだけれど、刹那に限ってはそんな風にハ レルヤを苛つかせることもなく、僕をはらはらさせたり、困惑させてしまうこともなくて、刹那をじっと僕の隣で見ているハレルヤを中心に、とても穏やかな優 しい風が心の中を満たしていくような感じがしたんだ。
だから今までは何も言わなかったし(だってうるさがれるのが目に見えてる)いつかハレルヤが自然に刹那のことについて何か言ってきたりするのを待っていた のだけれど、事態は思わぬ方向に転じてしまった。
僕だって、刹那のことは詳しくは知らないけれども過去にひどい経験をしたってくらいは知っているし、こわいくらいに感情を隠す彼のことをかわいそうだなっ て思うこともあるし、ご飯を一生懸命食べてるのを見ると可愛いなって思うこともあるけどそれは正常の範囲内だよね?
別に、僕だって挨拶のキスくらいはしたいとも思うけれど、その唇を嘗めたいとは思わないし、シャワーを浴びた後にどうにも不精で髪を乾かそうとしない彼を 見て注意をしなければと思うことはあっても、その濡れた髪を掻きあげて肌の匂いを嗅ぎたいなんて思わない。…端的に言うと、どうやらハレルヤは同じ性別 の、しかも年下のパイロットに恋をしてしまったらしい。
これを知ったのは偶然でもなんでもなかった。 命令違反の罰で、一週間の監房入りを命じられた僕だったけれど、ハレルヤがいるし何とかなるだろうと、きっとティエリア辺りが聞いたら青筋を立てて怒るよ うなことをのんびりと考えていた。一週間、と言うけれども定期的に食事やら、用をたす時間なんかもあって、それなりに時間は潰せた。
僕はハレルヤにしつこいくらいに話し掛けて、(時々怒られてしまった)ハレルヤも流石に真っ白な壁の中では退屈したみたいで色々と話しをしてくれた。彼の 場合はほとんどは誰かの悪口だったりしたので僕は一々それを諌めなきゃいけなかったのだけど、やっぱりその悪意の対象から刹那は外れていて、僕はそこでハ レルヤにとって刹那はとても特別な存在らしいということを知る。
だからと言って気安くその気持ちを尋ねることは何だか忍ばれてやっぱり僕は口を噤んでしまった。 そして4日目の夜のこと。偶数の日はハレルヤの日だと一日目に決めていたので、この日はずっとハレルヤが壁の中に浮かんで暇を持て余していた。
ハレルヤは何かとても苛々している様子だったので僕は放っておいてあげようと決めて眠りにつくことにした。うとうとと意識を覚醒させたときに聞いたのは啜 り泣くような声で、心底驚いた僕は声を出すのも忘れて(でもそれは正解だった)ハレルヤの「刹那」という小さな声を聞いた。
蛇口から水滴が落ちるのと同じに、今まで見てきた刹那の表情や仕種や跳ねる髪の残光やらが何もかも浮かんできて、きらきらと光っていた。僕が知らない(で もきっと目にはしたんだろう)ハレルヤが拾い集めた彼だけのための映像だった。紛れもなく、恋。僕はこうしてハレルヤの気持ちを知った。
それがきっかけだったのかもしれないけど、それからというものの刹那のことをよく観察するようになっていた。いくつものミッションの間、プトレマイオスで の休憩時間、トレーニングルームでも、どこでも。だって、僕が刹那を視界に入れればそれだけハレルヤが刹那を見る機会も増えるだろう?
それに、僕も刹那のことをもっと知りたい。ハレルヤが見つけた『特別』を僕も知りたい。
「…アレルヤ?」
知りたいとは思った。でも、忘れてたのは恋という感情がただその人を見ていたいと言うだけのものではなく、もっと原初的な行為に結びついていくと言うこと だったんだ。
手を繋ぎたい、くちづけをしたい、そして…ああ、でも駄目だよ!だって、刹那はこんなに小さくて、今だって突然のことに固まってしまっているじゃないか。
「うるせぇ」
お願いだからハレルヤ、僕の話を聞いて。そんなに力いっぱい抱きしめちゃ、刹那が苦しいだけだよ。逃げられてしまうかもって不安なのは判るけど。
「…逃げるなよ」
そうそう、そうやって力を抜いて。舌打ちは余計だけど。刹那は何が起こってるのかいまいち把握していないみたいだけど、きっとハレルヤの金色の眸に驚いて いるのかな。大きな眼がまんまるに見開いて、瞬きも少ないから乾いちゃうんじゃないかなって心配だよ。
間近に見る刹那の顔。皮膚のきめ細かいところから、そこがきらきらと光って薄く発光しているみたいで。 触ってみたい。ねぇハレルヤ、触ってご覧よ。手を離したくないなら頬でも、唇でもいいから。
「……なっ」
え、なんで赤くなるの。そんなに変なこと、かなぁ?正常の範囲内だろう、これは。
触ってみたいと思うのは、普通のことだろう?ねぇほら、刹那も首を傾げて不思議そうにしてるよ。でも何か無防備で可愛いね。そう思わない、ハレルヤ?













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