こんなに苦いものをどうして自分は悦んで呑むのだろう、と刹 那はその不思議に首を傾げる。耳の裏を撫でて(猫じゃない)いい子、と(子供でもない)いつもより赤い唇が低く掠れた声で呟いた。
その声が、刹那の悩を麻酔で痺れさせて何も判らなくさせるものではなく、単に追い詰められた故の余裕のなさから由来すると気付いたのはいつの頃だっただろ うか。結局追い詰められるのは、…我をなくすのは刹那であるのだ。ロックオンの声はいつも獣を目覚めさせるベルのようだった。
「…は……」
口を僅かにすぼめて完全に勃ち上がった性器の中央に摩擦させる。ロックオンの息が詰まるのを聞いて今度はできうる限り口を開いて喉の奥までそれを迎えた。 瞬間生理的な吐き気の訪れにえづくいて眸の奥から涙が押し上げるが、その生理を無視してそのまま数度喉奥に先端をぶつけるように揺らした。女の膣を扱うよ うに好き勝手にやられるのは好きじゃないが自分のペースで進められるのら異存などない。
あんなに厭っていたこの行為を率先して行う自分を、あの頃の自分はどう見るのだろうかとふと考えた。あの男はきっと笑うだろうか。
「…せつ…な…」
名前を呼ばれ、無意識に動かしていた舌を肉から離した。碧のいろが(透明だった)刹那をじっと見つめていた。熱に揺れる湖面は、無を浮かべる表情から聡く 何かを嗅ぎ取ったのかもしれない。
「…ぁ…も…う、」
喋らせたくない。過去など今は不要なこと。震える性器の裏側の弱い部分をそろりとなぞる。白い喉がしなった。その皮膚に噛み付きたいと欲望の焔が焚く。
もっと、と陰毛に絡めていた指に力を込めて口を開く。先端の割れ目に沿うように舌を尖らせ差し込めば、「あ、」と一層高く嬌声が洩れて刹那は愉悦に目を細 める。 十にも満たない年の差でいつも大人ぶる男の思考を奪うことは悪戯に成功したようでひどく愉快だった。
「……ぁ…は…」
「ん…」
どくり、とロックオンの欲望の象徴が口腔の中に溢れる。苦いものは好きじゃない。なのに、それがこうも己の舌を悦ばせるのは、きっと自分の脳みそが沸点な どとうに越して溶けてしまって、水銀のように身体の中にとけて神経をおかしくしまっているのだ。そしてこの声はきっと自分を溶かす火種なのだろう。
「ロックオン…」
痺れた舌が勝手に名前を呼んだ。もつれるようにして這い出た言葉を、突然に距離を近づけて掬い上げるようにロックオンは白く濡れた唇を舐めた。そしてその まま舐め上げた舌は腫れた唇の隙間を抜けて熱い肉壁の中を陵辱して吐息を奪い去る。ああ、また気が遠くなる。
「…ガキが、調子にのるなよ」
いつの間にか正気を取り戻したロックオンが浮かべたのは正しく大人の笑みで。先程まであれほど透明だった唇は今は精液浸って淫猥にただ光るのだった。 「生意気な」と口の中で呟いた刹那は、くつくつと歪むそのバーミリオンに嚙み付くように接吻を寄こした。












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