※近所のお兄ちゃんロックオンとちびっ子刹那という設定です。 朝、というじ間
たいは子どものいるかていではどこでもせんじょうとなっています。そんなれいにもれず、ロックオン・ストラトスもトーストを口にくわえ、母おやによること
ばのじゅうだんをかわし、なんとかその中をはい出して、がっこうへむかうせんしのひとりなのでした。
「何やってんの、早くしなさい!」 「はいはい」 どうにものんびりしているむすこにしびれを切らせたお母さんにせかされ、ロックオン君はあわあわといまだなれないつめえりのボタンを上までしめます。ま だせいふくをきくずす、ということをしないロックオン君ですが、いったいいつまでもつやら。そんなまなむすこをよこめで見つつ、カルバンクラインのこう水 をシュッと一ふき。りっぱなオフィスレディーのかんせいです。 「はいコレ、お弁当二つ!忘れないようにね!」 つくえの上にはこんいろのつつみにはいった大きなべんとうばこと、あかいチェックにくまさんのアップリケがついたランチョマットにつつまれた小さなべんと うがのっかっています。長いかみをざっくばらんにとかしたお母さんは、スリッパのおとをぱたぱたとならしてげんかんにかけていきます。そして「ゴミ出しと いてねー!」とげんきなこえを出して、バタンととびらがをしめてしゅっきんしていきました。ロックオン君はいつものこうけいながら、朝からパワフルな母お やにかんしんして、こうちゃをすすります。けっこうのんきにしていますが、あんまりじかんはのこされていないの、気づいてるんでしょうか?テレビらんなん てどうでもいいから、ちゃんととけいを見てほしいものです。なによりかれは、まい朝大せつなしごとがあるのですから。 「あ、やべっ」 ようやくあわてだしたロックオン君。こうちゃをいっきにながしこめばいそいでかばんをとって、その中にじぶんのべんとうばこをぽいといれます。せっかく のおべんとうばこがかたむいてしまうきもしますが、ロックオン君はきにするそぶりはありません。もう一つのかわいらしいおべんとうをかた手につかんで、お 母さんがぬぎすてたスリッパをかんたんにととのえてます。こういうところを見るとけっこうマメなせいかくなのかもしれませんね。そんなマメなロックオン は、お母さんのいいつけどおりにゴミ出しもわすれません。げんかんのはしっこにえい、とよせられたゴミふくろをもつとようやくおうちを出てがちゃりとかぎ をかけました。かばんをかたに下げ、かた手にべんとうのつつみ、あいたもうかたほうの手にはゴミふくろ二つ、とけっこうな大にもつです。しかしロックオン 君はなれたもの。かるくステップさえふみながら、となりのおうちのとびらのまえにたって、ピンポン、とベルをならしました。 「刹那ー、いるかー?」 へんじがかえってくる前に、ロックオン君はとびらをあけて中のようすをうかがいます。すると、くろいふわふわがぴょん、ととびはねてロックオンのおなか にぶつかってきました! 「刹那、おはよう」 「ん」 なかなかなしょうげきのはずなのですが、ロックオンはにこりとわらっておなかにしがみついた、せつなとよばれた子どもをなでてあげると、ぐりぐりとあた まをおなかにおしつけていたせつな君はゆっくりおかおをあげて小さくうなずきます。ぱちぱちとまばたきする大きなあかちゃいろのひとみに見つめられるたび にロックオン君はかわいいなー、という気もちがひしひしわいてきて、ついついちゃんとごあいさつをかえせないせつな君のしつけもわすれてしまうのです。 「じゃあこれ刹那のお弁当な!」 はい!とおべんとうをわたすと、せつな君はりょう手でそれをうけとると「くまさん」と小さくつぶやきます。ほとんどひょうじょうをかえないせつな君です が、ロックオン君の目にはその小さなつぶやきの中にぎゅっとつめこめられたかんじょうをよみとります。うれしそうなせつな君に、ロックオン君もえがおをこ ぼします。 「可愛いだろ?俺が縫ったんだぞー」 「ん!」 よく見ればほっぺをほんのりとこうちょうさせているせつな君はなでなでとあたまをなでられてうれしそうにりょう手いっぱいにかかえたおべんとうばこを ぎゅうとだきしめます。てつやのさぎょうもこれでむくわれるというものです。ロックオン君はぎゅーっとせつな君をだきしめてから、そのおもちみたいなほっ ぺにほおずりして、「そろそろ行こうか!」とようやくたち上がります。 まい朝くりかえされるこのコミュニケーションのために早めにこうどうしているとはいえ、ざんねんながらじかんはむげんにあるわけではないのです。なごりお しげにたち上がれば、せつな君は「あい」とへんじをしてげんかんにおいてあったかばんの中におべんとうをしんちょうにつめこむと、ぴかぴかのかばんのとな りにおいてあったきいろのおぼうしをもってじっとロックオン君を見上げます。 「ろく、」 「ん?貸してみな」 ことしで四さいになったせつな君は、おきがえもはみがきもなんでも一人でできてしまうすごい子です。ロックオン君はそんなせつな君をまるでじぶんのこと のようにじまんしてしまうのですが、おぼうしをかぶることはなぜかせつな君はふしぎなことにうまくできないのです。ふわふわとはねるかみのけがじゃまなの かもしれません。ロックオン君はぼうしをせつな君の小さなあたまにかぶせてあげると、ぼうしの中でぐちゃぐちゃになったかみをていねいにととのえてくれま す。 「よし、男前!」 ぽん、とあたまを一なでして、手をさしだせば、せつな君は大きな手にぎゅっとつかまります。小さなもみじのようです。ロックオン君はかわいいなー、とま たぎゅっとだきしめたいしょうどうにかられるのですがここはがまんです。もうかたほうはゴミぶくろと手をつないで、ようやくようちえんへ出っぱつです。 「かぎ」 「はいはい。―っしょ!」 りょうわきをかかえてせつな君をもち上げると、せつな君はくびにかけたがま口からぴかぴかに光るかぎをとり出してかぎを かけます。ロックオン君もせつな 君もふたりそろってかぎっ子なのでした。 せつな君のよかようようちえんは、ロックオン君の中がっこうから少しはずれたばしょにあります。なのでロックオン君はちょっとだけとおまわりをしてがっこ うにかようのですが、おとうとのようにかわいがっているせつな君といっしょなのでちっともくになりません。むしろ、もっとようちえんと中がっこうがちかけ ればいいのに、といつも思うのでした。そんなことをかんがえているロックオン君は、にぎっている小さな手がぎゅっと力をましたのに気づいて「ん?」とくび をかしげてせつな君をかえりみました。すると、あめだまよりも大きなひとみが、じっとロックオン君を見つめているではありませんか。 「刹那?どうした?」 「んー…」 口をへのじにまげて、せつな君はその大きなめでなにかをうったえています。せつな君はとってもむ口な子なので、わずかなアクションやすくないことばから いろいろとすいそくしなくてはなりません。すききらいもなく、おかしがほしいとだだもこねたりしないので、その見ためからしてもおにんぎょうのようで手が かからない子なのですが、なついているロックオン君にはときどきわがままをいってしまいます。 「トイレ行き忘れちゃったか?」 そうたずねてもせつな君はふるふるとくびをよこにふるだけです。しかしくびをふるだけではわかりません。 「ごみ」 「ごみ?」 じっとせつな君はロックオン君がもっているごみぶくろを見つめています。ロックオン君はごみ、のつづきをききたいのですが、せつな君はわかってくれな い、とじょじょに口をとがらせてしまいまい、ロックオン君をあわてさせます。 「ごみ…」 「ゴミを?…もしかして、ゴミ持ちたいのか?」 「ん」 せつな君のくびがこくりとうなずきます。ロックオン君を見つめる目はきらきらと光って、「はやく!」とうったえています。かわりにロックオン君はうー ん、とまゆげをよせてこまりがお。ゴミぶくろは大きくて、せつな君のしんちょうとおなじくらいはあるのです。 「うーん…これ、持てるか?」 「もてる!」 せつな君の小さなおててがちょうだいをしてロックオン君をまっています。ふだんは四さいじにしてはよくもなくたんぱくなたいどなせつな君ですが、こうな るとてこでもうごきません。しかたない、とロックオン君は中がくせいらしかぬためいきをつくと、小さいほうのゴミぶくろをせつな君の足もとにおきました。 しぶしぶわたされたゴミぶくろを、せつな君はおめめをほう石のようにかがやかせてうけとります。しかし、そのかがやきもつかのま、どんどんくもってしまい ました。 「んー、」 せつな君がよいしょ、よいしょと一生けんめいひっぱるのですが、いかんせんもえるゴミは手ごわいのでした。どうろにでん、とおなかをつけたまま、ゴミぶ くろはそのばをうごこうとしません。そんなせつな君のようすを、ロックオン君ははらはらして見つめています。せつな君がいきおいあまって前のめりにころん でしまわないか、しんぱいなのです。そんなじじょうもしらず、せつな君はゴミぶくろとかくとう中。ひっぱるのをあきらめて、つぎは前におすたいせいにかえ てみます。するとどうでしょう!ゴミぶくろは一応、ころころと前にころがっていくではありませんか。 「ろっく!」 「おー!すごいすごい!」 これにはロックオン君もおみごと、とはくしゅをします。しかし、またせつな君がよいしょ、とゴミぶくろをまるでうんどうかいの大玉のようにころがすと、 「待て」とロックオン君があわててストップをかけます。とつぜんさぎょうをとめられたせつな君は、おれそうなくびをかたむけてどうしたのか、とたずねま す。 「刹那、このまま転がしてくと袋が破ける」 「?」 「だから、後は俺がもつ。刹那はまた今度持ってな」 小さなせつな君にいいきかせるために、前かがみになってやさしくロックオン君がいいます。しかしせつな君はおれがもつ、とロックオン君がいったしゅんか ん、「や!」といってくびをよこにふってきょぜつします。 「だってな、袋、やぶけちゃうぞ。そしたら、ゴミが道端に落ちてみんな迷惑するだろ?」 「や!」 ロックオン君のいうことはもっともです。せつな君が小さな体でゴミぶくろをおすたび、力がたりないせいかずりずりとあらいコンクリートのめんをすべって しまうのです。このままではふくろがやぶけてしまいますので、せつな君にそれをせつめいするのですがそこは四さいじ。りくつでといてもわからないものはわ かりません。 「刹那、」 「や、」 がし、と小さなせつな君はふくろにしがみついてじゃなれません。まるでお気にいりのぬいぐるみのようです。ロックオン君もむきになってしまい、「ダメっ たらダメ!」とせつな君をひきはがしにかかります。おにいちゃんに見えてもロックオン君もまだまだ子どもです。思いどおりにならなければおもしろくないの です。 「やー!」 せつな君は大きなおめめに涙をためていやいやとこうぎするのですが、力わざでもっていったロックオン君。そのまませつな君をくっつけたままゴミすてばま でダッシュです。ぽい、とそれでもせつな君がけがしないようにゴミをすてれば、せつな君もなんどかはねるゴミぶくろといっしょにゆれてさいごはじめんにこ ろりところがってしまいます。すなぼこりによごれてしまった水いろのスモッグを見て、ロックオン君はあ、とわれにかえりました。 「…う」 「せ、刹那!」 ぼこり、と大きなひとみがうかび上がって、あわてたロックオン君はせつな君をもち上げるとぎゅう、とだきしめます。びっくりしたせつな君は「ろっく?」 とくびをかしげてロックオン君を見上げます。すぐになきやんだせつな君にロックオン君はほっとするのとどうじになんだかじぶんがひどくなさけないような気 がしてぐっと下くちびるをかみしめました。 小さい子あいてに、じぶんはなにをムキになってるのだろう。せつな君はあの大きなおうちでいつもひとりで、きょうも、ひとりでおきがえしてきのうのよる にコンビニにかいにはしったパンを朝ごはんにロックオン君をまっていたのです。それを、じぶんはムダにしてしまった。ロックオン君のみどりのおめめが、せ つな君のようにぼこりとうかび上がって、どんどんなみだがあふれてしまいます。 「ろっく!」 とつぜんなき出してしまったロックオン君に一ばんおどろいたのはせつな君でした。いつもじぶんにやさしくてなんでもしっているロックオン君が、まさかな いてしまうとはゆめにも思わなかったのです。おろおろとロックオン君のまわりをうごきまわると、やがていつもロックオン君の手ににぎられていた小さな手は なみだにぬれるほっぺにふれて、そのなみだをよしよし、とふきとります。 「ないちゃ、め」 せつな君にそういわれてロックオン君はぱちくりとなみだにぬれたひとみをまばたかせました。 『泣いちゃ、めーだぞ、刹那』といいきかせていたロックオン君のことばをまねしたことばでしたが、それはまほうのようにロックオン君によくききました。 ぴたり、となきやんだロックオン君は、やがて小さな子どもになぐさめられるじぶんがはずかしくなってしまったのでしょう、みみをあかくして立ち上がる と、てれかくしにらんぼうにくろいふわふわのかみをなぜまわします。 「…帰りに、お使い頼まれたから。刹那も一個、荷物持とうな」 ぼそぼそとつぶやかれたことばに、せつな君は「あい」とへんじをして、おうちを出てきたときとおなじようにロックオン君の手をぎゅっとにぎります。その ようすをほほえましく見つめるロックオン君は、ロックオン君はじぶんがまもってあげなくちゃ、というせつな君のひそかなけついをしらないままなのでした。 |