※近所のお兄ちゃんロックオンとちびっ子刹那という設定です。
※少し成長しました。 ロックオン君がじゅくからかえって来て、おうちにも かえらずにまっ先にすることは、となりのおうちに住んでいるせつな君のおうちにあそびに行くことです。 今は夏休み。 せつな君もロックオン君も、学校という社会からかいほうされて思い思いやりたいことをまんきつしているのです。 とくに、今年から小学校に上がったせつな君ははじめての夏休みです。どんなにむひょうじょうでなにをかんがえているのかしら、やっぱりおやがダメだと子ど もに もわるいのかしらね、と近所でもひそひそとうわさを立てられているせつな君でも、夏休みはとてもたのしみなことなのでした。ロックオン君からおさがりでも らったランドセルをしょえないのはちょっとさみしいのですが、夏休みにはべつのたのしみとあつい日ざしがせつな君のさみしさをうめてくれるのです。 「おーい、刹那、どこいったー?」 げんかんにかってにはいってきたロックオン君をむかえたのはエアコンでひんやりとひえた空気で、ロックオン君は「またエアコンをつけすぎて」と少しかお をしかめます。 くつをぬいで、冷えたフローリングの上をぺたぺたと歩いていっても、しんとしずかなおちゃの間があるだけで、どこへ行ったのでしょうか、あのふわふわの あたまは見当たりません。 「刹那ー?」 かぎは開いていたのでせつな君がおうちにいることは間ちがいないのです。 せつな君がかぎもかけずにどこかにあそびに行ってしまう、ということはなかなかかんがえられないことなので、ロックオン君はまさか”ふしんしゃ”でもは いったのか、とかおをあおざめさせるのですが、かお色をさっとかえたところ、でにわにつながるまどがガラッと音を立ててひらきました。 「ろっくお、」 「刹那!」 わるいよかんがしていたロックオン君は、まどからかおをのぞかせたせつな君にあわててだきつきました。 小さくてあったかいからだをぎゅっと力をこめてうでの中におさめると、みうごきができなくなったのがくるしかったのでしょうか、(もともと、せつな君は人 にさわられるのがにがてでした。そのせいかもしれませんね)せつな君はばたばたと足をばたつかせてあばれます。 「わ、悪い!」 「…ん、」 そのきょぜつをびんかんにかんじとって、ロックオン君はぱっととじこめたせつな君の体をはなしてあげました。すると、あれだけあばれていたせつな君はま ゆをすこし下げ、こまったようにロックオン君を見つめています。もじもじとゆびをからめさせ、せつな君はどこかこころもとないようすなのでした。 そこで、ああ、さみしいのかなとロックオン君はぴんときて、こんどはゆっくりと、出来うるかぎりやさしくせつな君をだきしめます。ぽかぽかのひなたを すったくろかみがほおをくすぐります。ロックオン君はくすぐったそうにわらいました。 「外で何やってたんだ?」 くびをかしげてといかければ、せつな君はやわらかなうでの中で一どまばたきをして、つぎにむっつりとだまりこんでロックオン君の手からぬけだすとそれを ひっぱります。 お子さまとはあなどれないくらいなかなかのつよい力でひっぱって、それはクラスの中で一ばんせのたかいロックオン君でもバランスをくずしてしまいそうに なってしまうほどです。「慌てるなよ」とロックオン君はぐいぐいとちからのかげんのしらないせつな君をなだめながら、小さなあんないやくにまかせてにわに でました。 にわは、ちょうどくものすきまからするどくなったひかりがさしてあかるくてらされていました。 花のさきおわった”ぼけ”の木が、こいみどりのいろをきらきらとまぶしくひかって、ロックオン君は目をほそめます。そしてそのまぶしさにしせんをそらし た先に、あざやかないろを見つけました。せつな君はそのしかいの中にとびこんでいくようにかけだし、そのあざやかないろをつかまえます。 「…あさがお、」 いつもより少し大きく、こうふんしたようなこえでせつな君がいって、ゆびをさしました。 おさないゆびがさすはっぱはぴかぴかにひかって、まるでランドセルのようにつやをふくんでいます。せつな君はしゃがみこむと、ゆび先でこしこしとこすっ てはっぱについた土ぼこりをおとします。とてもしんけんなまなざしでした。 「へー朝顔かぁ。懐かしいなあ」 小学校のとき、ロックオン君もあさがおをそだてたおぼえがありました。もっとも、かれのばあいはせわもしないでほうっておいて、先生におこられてしまっ たのですが。 そんな不まじ目なロックオン君とはちがって、せつな君はいたってまじ目に学校からわたされたこのお花をそだてているようです。えいようのいきわたったは も、花もつぼみもぴんぴんと元気で、大せつにされていることがわかります。 とくに、一ばん大きな花はひそかにお気にいりのようで、ほかのあおいはなとはちがったうすいピンクのまじった花を見て、せつな君はまんぞくそうにほほえ んでゆびでちょん、とつついています。 ロックオン君がせつな君のほおをつつくのとおなじしぐさをするのが、ロックオン君はなんだかくすぐったくてあたまをかきました。 そんなふうに、一生けんめいにせわをして花をかわいがるようすをそうぞうするとかわいくて、ロックオン君のほおも思わずゆるんでしまいます。せつな君は そんなロックオン君をちらっとも見ずに あおいしばふの上においてあったノートを手にとると、それをめくりました。 「観察日記?」 「ん」 かおも見ないでへんじするせつな君に少しくしょうし、12しょくのクーピーからむらさきをとり出してぬりはじめます。 ”えにっき”とかかれたみどりいろのノートには、たくさんのむらさきいろの花がまるくさいていて、せつな君はそれをていねいに、ていねいにふちどって、 それからしんちょうにいろをぬっていきます。はみ出さないように、いきをとめてぬるので見ているだけのロックオン君までもきんちょうしてしまいます! 「……、…」 こくり、とロックオン君ののどがなりました。いきのしかたをわすれてしまったように、ぎこちなくはいの中に空気を入れれば、のどに空気のあわがひっか かってしまったようでくるしくなってしまい、ロックオン君はのどをおさえます。そのようすを見上げていたせつな君はすっくとこしを上げると、そのままてく てくとまどぎわまで走っていって、おうちの中へとはいっていきました。どうしたのだろう、とくびをかしげればりょうてにガラスのコップをかかえてもどって きます。ゆらゆらコップの中の水がゆれて、ぎんいろのしずくがきらきらとはねかえりました。たよりない足どりで小さなサンダルをはいて、いっぽ、いっぽあ ゆみをすすめてあさがおにちかづきます。そしてはっぱをそっとゆびでよけて、コップをひっくりかえしました。土のぬれるこうばしいにおいが、ロックオン君 のはなをくすぐります。 「……」 せつな君はじっと土のひょうめんを見ています。このままかわくまでまつのだろうかとロックオン君がひやあせをかいてきぐしはじめたところで、せつな君は またぱっと立ち上がってコップをかかえてはしっていきました。たぶん、水が足りなかったのでしょう。ロックオン君は、そのせなかにあわててこえをかけま す。 「刹那、俺が汲んできてやろうか?」 ”この調子ではいつ終わるのか判ったものではないぞ”と考えたロックオン君は、めいあんとばかりにりょう手をあわせてせつな君にていあんします。しか し、せつな君はぶん、とくびをよこにふりました。 「や」 コップをとられまいとでもするかのようにしっかりともちなおし、上目でロックオン君をにらみます。む、とロックオン君は口をとがらせました。しんせつで いったことなのに、どうしてにらまれなきゃいけないのでしょう? 「何でだよ? その方が早いだろ?」 「や、」 ロックオン君がちかづいて手をのばします。さっと、せつな君はコップをせなかにかくします。それからまた目に力をこめてロックオン君をいかくしてから、 せなかをむけてまたいえの中にはいってしまいました。 またしばらくするとせつな君はもどってきてさきほどとおなじようにあさがおに水をやります。それを、ロックオン君は立ったままながめていました。せつな 君がしゃがみこんで、またクーピーでかみのひょうめんをなぞりはじめてもおなじです。 「……刹那、いつまでやるんだ? これ」 ぽつり、とロックオン君がたずねました。たいようは、だんだん白からきいろになってそらのきょうかいにすいこまれようとしています。せつな君は、ロック オン君のこえにはんのうしたのか、またはしずむ夕日のいろに気づいたのか(かなしいことに、きっとりゆうはこうしゃでしょう)、あおぞらよりももっとあざ やかないろをしたはちをかかえて、もっと日があたるばしょへとはこんでいきました。このいちなら、ひがしずんでしまうギリギリまでスケッチができるでしょ う。 またこしを下ろしていっしんにスケッチをはじめたせつな君に、ロックオン君はまた小さくつぶやきます。 「…俺、帰っちゃうぞー」 うつむいたままボソボソとつぶやくこえは、目をさましはじめた虫たちのこえにかきけされて、せつな君にはとどいていないのでした。それでも、ロックオン 君にはそれが、せつな君のこころの中をあらわしているようでこわくなったのです。 (もしかして、刹那はもう俺のことがいらないのかもしれない) (俺、もう邪魔になっちゃったのかな) そんなことをかんがえると、むねが、つままれたようにぎゅっといたむのです。いたくて、くるしくて、男の子なのに、ないてしまいそうになるのです。せつ な君にいつもいいきかせてるのに、これじゃあおにいちゃんしっかくです。 「帰っちゃうからなー」 さきほどよりすこしのどに力をいれてしゃべっても、せつな君にはやはりとどかないようなのでした。ロックオン君がいつもせつな君のふわふわのかみをなで るように、かぜにゆれる花をなでています。 カラスが山にかえるのでしょカァ、カァとあたまの上でなくこえがあめのようにせつな君にふりそそぎます。オレンジいろのたいようの中に、くろいかげがす いこまれるのを、大きな目を見ひらいてせつな君がおいかけました。あの山のなまえはなんなのだろう、とせつな君はふと、となりをかえりみます。 「…ろっくおん?」 くびをめぐらせて、ぐるりとあたりを見回します。でもいくらさがしてみても、かげはせつな君一人分しか見つかりません。 「ろっくおん……」 ジー、ジーと、立ちつくすせつな君をあざわらうように、虫のなきごえがあたりをつつんでいました。 「最近、元気ないわね」 ロックオン君のお母さんが、ロックオン君といっしょにぼんやりとテレビをながめながらつぶやきました。『てっぱん』やらといわれるおわらいげいにんの ギャグはもう見あきてしまって、それでもほかに見るものもなくてぼうっとしていたあたまが、水をかけられたようにさめていきます。 「…え?」 「刹那くんね、最近元気ないのよ。あんた何かした?」 「別に…」 せつなのことか、とロックオン君は小さくいきをつきます。 (元気ねーのはこっちだっての…) せつな君からにげるようにしてかえったつぎの日、ロックオン君はやっぱりあやまろう、とおもってせつな君のおうちにいったのです。 げんかんにかってに 上がって、せつな、となまえをよんだのです。なのに、せつな君は出てきませんでした。きっと、またあさがおをかんさつしていたのにちがいないのです。 (ロックオン君がよんでいるというのに、です!) だからおもしろくなくて、ロックオン君はそっととびらをひらいて友だちのおうちにあそびにいきました。つぎの日は、とびらの前まできてひきかえしまし た。またへんじがなかったら、とおもうとしりごみしてしまったのです。 「そう?何かあいさつしても元気ないか ら…。何でもないなら、これ、持って行ってあげなさい」 はい、とさしだされたのは、にくじゃがのはいったタッパです。「作りすぎちゃったから」とお母さんはわらいましたが、いつもよりおおめにざいりょうを かっていたのをロックオン君はしっています。二人のぎくしゃくとしたくうきをさっしたのでしょうか、お母さんは「早く行きなさい」とロックオン君のせなか をおします。 「押すなって…! …行ってきます」 ぐいぐいとげんかんまでおしだされて、ロックオン君はあわててサンダルをつっかけました。お母さんはロックオン君をまるでやっかいなにもつのようにげん かんからおいだすと、バタン、ととびらをしめてしまいます。じつのむすこにひどいあつかいだ、とロックオン君はほおをふくらますのですが、となりのおうち にひっそりとともるひかりを見つけると、そのひょうじょうはどんどんくもってしまいました。 いまごろ、せつな君は一人でかせいふさんがよういしたばんごはんをたべているのでしょうか。そうすると、またむねがぎゅうぎゅうとしめつけられるように いたみます。せつな君がさみしいと、ロックオン君もさみしくなるのです。 「…電気、点いてる」 ポーチに、でんきがともっています。いつもは人をこばむようにとざされたとびらが、オレンジいろのひかりにともされて、まるでロックオン君をまっている ようにおもえたのです。だいだいいろのひかりの下にいき、つばをのみこみます。そして、ドアノブに手をかけて、しかしやっぱり、とためらってふだんはなら さないベルをならしました。 「……せつなー、俺だ、けど」 へんじのないドアにむかってこえを上げます。だんだんとこえは小さくなり、とぎれてしまいます。ロックオン君はじしんがありませんでした。せつな君のげ んきがなかったのは、ただなつのあつさにつかれただけなのかもしれないし、でんきをともしたのも、かせいふさんのきまぐれなのかもしれないのです。それ に、ロックオン君は”おいめ”がありました。ちゃんとあいさつをしないでかえってしまったのです。いつもはおかまいなしにせつな君のおうちにはいっていく のに、へんじがないから、またむしされてしまったとおもってかえってしまったのです。おにいちゃんなのに、まるでこれではロックオン君のほうがわがまま で、おとうとのようでした。 そんなことをかんがえながら、ロックオン君はひかりにつられてばたばたともがいている”が”を見つめます。それから、ためいきをついてオレンジのひかり にせなかをむけました。 (明日、またちゃんと謝ろう) 小さくけっしんして、ロックオン君はあるきはじめます。にくじゃがは、じぶんのへやでこっそりたべてしまおう…。しかし、そんなロックオン君のおもわく は、せなかからなったガチャ、というおとにかきけされることになるのです。 「ろっくおん」 「刹那、…起きてたのか」 でんきはついていたのですが、ロックオン君はいいわけをするようにそうつぶやいていました。せつな君はそのといかけに、「ん」とくびをたてにふります。 なんにちもたっていないのに、とてもなつかしいようなかんじがます。上目でロックオン君を見つめるひとみは、かっしょくのひかりがうつりこみ、うるんで ゆれて、どこかたよりなさげでした。 「ごはんは?もう食べたか」 「ん」 「そっか。…これな、肉じゃが。母さんが、持っていけって言うから…お裾分けな」 あわてて、もってきたタッパをせつな君におしつけます。それをうけとると、せつな君はじ、とはんとうめいのはこの中をのぞきこむと、それからかおを上げ てロックオン君を見つめます。 そのしせんにあわせるように、ロックオン君はかがみこみました。まいあさのむこうちゃのようないろのひとみと、ばちりとしせんがからみます。 「あの…さ、」 なんと、いえばいいのでしょう?ごめんなさい?なにをあやまればいいのでしょう?さみしくしてしまったこと?でも、さみしかったのはロックオン君のほう なのです。わからなくなって、ロックオン君は口をとざしてしまいます。 ロックオン君がもごもごと口ごもっていると、とつぜんおもいたったように、せつな君がその手くびをつかみました。おどろいて”かた”をすくませると、そ のしょうげきにせつな君の手の中にあったタッパは、はでなおとを立ててゆかにころがってしまいました。さいわいなことに、がんじょうにふたがしてあったの で中みがこぼれてしまうことはなかったのですが。 「…まってて」 せつな君はそれをひろって、だいじそうにかかえてからぽつりとロックオン君にむかってつぶやきました。そしてくるり、ときびすをかえすとパタパタとス リッパをならして”いま”のほうにきえてしまいました。なんだろう、とロックオン君がせつな君のたいおんののこる手くびをなでながらかんがえていると、ほ どなくしてせつな君がかえってきます。手には、なにかきいろのかみをもっているようです。 「これ、」 「これ?俺に?」 ずい、とさしだされて、ロックオン君は目をぱちくりとまばたかせます。こくり、とせつな君がうなずくので、ロックオン君はそのきいろの、なにかあたたか い”けはい”のするカードをひらきます。そこにひろがったあざやかないろに、ロックオン君は目をひらきました。 「…朝顔?」 それは、大きなあさがおの花なのでした。まるくて、せつな君のてのひらなんかよりずっと大きくて、うすいピンクのまじったそれ。もしかして、これはせつ な君がだいじにしていたあさがおなのではないでしょうか?ロックオン君が目をまるくしていると、せつな君がロックオン君を見つめていうのです。 「だいじな人にって、学校で、やった」 「……刹那、」 なんて、いえばいいのかなんてなやんでいたじぶんが、ばかみたいでした。 いつもどおりに、すればいいのです。いつもどおり、おせっかいをやいて、すこしいやがられて、すこしほほえまれて、じぶんはずっとわらっていればいいの です。かおいろをうかがって”きげん”をとろうなんて、おかしなはなしなのです。じぶんたちは、きょうだいなのですから! 「ありがとな、刹那」 ぎゅ、とだきしめるとせつな君はうでの中で小さくうなずきます。とくとくと、二人のしんぞうのおとがかさなって、虫のこえはどこかとおくへいってしまっ たようなきが、ロックオン君はしたのでした。 ロックオン
い つも、ありがとう 大すき せつな |